感想:萩原麻里『暗く、深い、夜の泉』

暗く、深い、夜の泉 (一迅社文庫 は 1-2)
萩原 麻里
一迅社
売り上げランキング: 235982
おすすめ度の平均: 2.0
2 再販?

「道はひとつしかない、選ぶ余地はなかったんだって言い訳は、すごく楽な逃げ道よね。だからあたしは選択肢があるって事に気づかない人間が嫌い。一番嫌いなのは、分かってて気づかないふりする人間だけどね。凪みたいに。
 ねえ佐記子。あんたにだって選択肢はいくつもあったはずでしょう? だけど結局はここに来てしまった。この谷津柱にね。どうして?」

感想

2004年に出た既刊小説の加筆修正版ということだけど、元になった方は読んでない。
どこに軸足を置いて読み進めれば良いのか、というのに迷ってる内に読み終えてしまった感がある。どこかつかみ所のない小説だった。

最後まで読んで思ったことは、主人公(佐原佐記子を主人公だとして)は、倉宮への生け贄というよりも、続編のための生け贄だったのかなあ、ということ。
主人公は最初から最後まで、谷津柱高校の秘密や、『倉宮』と反倉宮の対立構造を紹介するための小道具だった。『倉宮』にとって必要な存在であり、『ハン』にとって救出対象である彼女は、設定的には物語に大きく関わっていながら、実際には稲川淳二的な怪談話に出てくる『被害者』以上の物になっていない。彼女の周囲の主要登場人物が皆大体の事情を把握しているところもさらにそう思わせる。彼女は事情を知り、真っ当な反応をして、予定調和的な結末を迎えただけだった。
佐記子は凪に動揺を与えることができたかもしれないし、これから先の凪の行動に大きな影響を与えるかも知れない。でも佐記子の行動や発言は、倉宮側が侵入者を放置している以上予測のつくことで、それで凪が動揺する程度の人物なら『倉宮』も相当甘いなあと思わざるを得ない。

だからこのお話は凪の物語で、恐らく面白くなるとすればこれ以後の話だと思う。続編って一迅社文庫で出るのかな?