感想:峰守ひろかず『ほうかご百物語』

ほうかご百物語 (電撃文庫 み 12-1)
峰守 ひろかず
メディアワークス
売り上げランキング: 14320
おすすめ度の平均: 2.5
2 ちょっと、これはない。
3 1回は読める、2回目は・・・
2 ライトイラストノベル
1 ふざけてる
4 主人公は表現者の卵

「僕の――」
 穂村や先輩に聞かれたら、またかよ、と笑われるだろう。我ながらヘンな性分だとも知っている。だけど僕は、
「モデルになってください!」
 そう叫ばずにはいられなかった。

 ワンパターンである、ということは、方法論が確立している、ということである。
 ドラえもんの多くのエピソードの導入が似たようなものであるのと同様に、方法論が確立している作品は、良い言葉で言えば安心感があり、悪い言葉で言えば印象としての単調さを持つ。また、ワンパターンには、お話を量産しやすくなるという利点とともに、読者にどんな風に楽しめばいいかということを予めわかっておいてもらえるという利点もある。
 ワンパターンな作品には二種類ある。意識しての「計画的なワンパターン」と、複数作った作品が無意識のうちに同じ流れをなぞってしまっている「結果的ワンパターン」だ。プロットを立てずに作品作りを行うと、後者のようになりやすい。プロの作品でワンパターンと感じる場合には、多くが前者、意識してのワンパターンだ。
 そしてワンパターンを貫くことは一つの勇気だ。


 さて、今回僕が読んだ『ほうかご百物語』は第14回電撃小説大賞の、大賞受賞作品である。
 ざっとあらすじを説明すると、やたらと妖怪が出現するようになった学校内で、ゴーストバスターズならぬ妖怪バスターズを始めた美術部の、学園ラヴコメディ、ということになるだろう。

 物語の中心にいるのは、美術部の三人。
 数合わせで美術部に在籍している妖怪マニアの先輩、経島御崎。スケッチしたい対象が見つかるとすぐにモデルになってくれと口説いてしまう美術部員で、さらに妖怪誘因体質である主人公、白塚真一。そして妖怪そのものであり真一の理想のモデルであるピュアなイタチっ子、伊達クズリ(仮名)。短篇の物語をいくつか展開していくのに、過不足のないキャラ配置だと思う。その他にも二人ほど美術部員はいるが、バイト漬けの幽霊部員と、いつも山ごもりでスケッチをしている子なので、ほとんど登場しない。
 僕は『ほうかご百物語』のなかでは、この美術部の空気感がピカイチに好きだ。真面目に活動している子と、実際の部活動に興味はなくインターネットを弄ったりしているような子がいて、そして可愛い女の子がいて、それぞれ仲も良くてよく話をしている。こういうのを見ると「学生生活だなあ」という感じがする。学生時分はまともにやってなかった癖に、基本的に部活動モノに弱いのだ。

 少し詳細にあらすじを見ていくと、事の発端は、夜、真一が忘れ物を取りに来た学校内で、謎の美少女に血を吸われそうになったことになる。良い意味でベタだ。真一は経島先輩から聞いた話のおかげで彼女が妖怪の「イタチ」であることに気がつき、その正体を指摘することで撃退。その後、彼女に「モデルになってくれ」とお願いしたところ、翌日イタチは約束を守り美術部にやってくる。経島先輩の提案で、イタチは学校に通い続けることに。しかしイタチはモデルとしての役割を終えたら帰らなければならない。ではどうやって学校に通い続ければいいか、それは簡単、モデルになるという約束をいつまでも果たさなければ良い。前述したような特殊な人材の揃った美術部。時を同じくして学校内に出没し始めた、実害があったりなかったりの妖怪達。経島先輩のノリでその退治に乗り出したりする内に、怪奇現象は美術部が解決してくれるという流れになって――。
 そんな感じのノリではじまり、計六話の短篇形式で、物語は綴られていく。ちなみに一話ごとに妖怪が一つ(?)ずつ紹介されるような形。ちなみにオマケのような補話にも妖怪が出てくるので、第一巻に出てくる妖怪の数は計七。『ほうかご百物語』というタイトルを比喩的な意味でなくそのままに受け取るならば、最後までに14〜15巻ほど使うことになるだろう。

 いろんな妖怪が出てきてしっかり考証もされてる感じだが、物語に必要な設定だけが取り上げられていて、あまりマニアックには語られない。また、よくある「妖怪と人間の間の軋轢」みたいなモノがテーマにあるわけではない。人間の認識次第でどうにかなったり、ルールを持っているとはいえ理屈がとおっていればいくらでも穴を突けるルールだったりで、どうにも曖昧な存在という感が否めない。この辺りはまあ、論理的バトルに持って行くためのご都合主義的な設定と言えるだろう。

 一読し終えての第一印象は、安定してヒットが狙えそうな作品という物。この一冊を読んだだけで、峰守ひろかずが作品をシリーズ化していく能力を持っていることがわかる。が、ちょっと読み返して見ると、この作品は少々売れ線からは逆行しているようにも感じた。
 極端な萌え要素を持ったキャラが出てくるわけではない。多数のヒロインが主人公を慕うようなハーレム展開でもない。恋愛物における狭義的な意味でヒロインと呼べるのは一人、イタチさんだけだ。主人公真一も、ヒロインであるイタチにベタ惚れ。経島先輩に至っては(ネタバレ自重)。メタネタなどの斬新なギャグがあるわけではない。メインヒロインが「イタチ」だと言うのは斬新だが、モノノケの類であるという意味では珍しくはない。ギャグのセンスそのものはなかなかのものだと思ったが、多くは経島先輩のキャラクター性に支えられた物だった。そして最近流行のエッチなネタが入ってるわけでもなかった。『ほうかご百物語』の帯には、キノの旅の作者、時雨沢恵一の「女子でも楽しめる」という言葉が入っていて、それはつまりこういう要素を指して言っているのだろう。

 だが、ライトノベルを読み慣れた人が、この本を電撃小説大賞の大賞作品だと意識して読むと、どういう印象になるだろうか。恐らく多くの読者にとって「盛り上がりに欠ける話」「小粒な印象の作品」となったのではないだろうか。
 中盤からの各エピソードの導入「妖怪を見つけての、あるいは依頼を受けての、妖怪退治」というワンパターンさが、それに拍車をかけている。また『ほうかご百物語』というタイトルの前半、『放課後』にも着目しよう。この小説には、『学校の放課後』以外の場面、例えば普通の授業中だったり、学校外だったり、主人公の自宅だったりといったシーンがほとんど出てこない。舞台や時間帯、人間関係も選択され、限定されているというわけだ。その事実はやはり、作品の小粒さを印象づけるのに一躍買っているだろう。
 しかし勿論、作者が「学校以外のシーン」や、あるいは例えば「主人公と父の会話」を「面倒だから」という理由で出さなかったのかと言えば、そうではないだろう。
 小さく閉じた世界の中、主人公がいつも放課後に学校で会う人間達だけの世界――僕が「学生生活だなあ」とノスタルジーを感じた美術部の空気を中心にした、登場人物の全員が知り合い同士であるかのような世界観。その表現が前提にあるに違いない。そして僕らは物語に接するとき、切り取った断片だけのリアルでない世界に逆にリアリティを感じるらしい。これはその少々極端な例だろう。あまりどっぷり浸かるとカラダに悪そうなぬるま湯的なモノだけど、嫌いじゃない。ただ、おそらくこればっかりは長く続かないと思うので、続巻では殻を破っていくことになるのだろう。

 しかしこの閉じた世界の構図。作者が意図していたわけではないだろうが、僕個人はこの場所と人間が限られている場でのコメディに、吉本新喜劇――というと少し語弊があるが、お笑いコント的な要素も感じた、ということも一応記しておく。
 もうちょっと活かしてもらいたかった設定は、主人公の美術にかける情熱。本編中で主人公の美しいモデルを見て絵を描きたいという欲望が変態的であるという言及こそされているものの、実際に発動したのは数シーン。主人公はすぐイタチさん一筋になっちゃったし、彼女を描いたら『ほうかご百物語』(完)になってしまうので発揮できる場所そのものが少なかったのはわかるのだけど、ネタとしては非常に美味しいところだと思うので(というかそこを抜いちゃうと主人公が物凄く透明な存在になっちゃうので)。
 文章自体はシンプルであまり気取ったところはない。難点としては、さくさく読める感じに見えて、複数人での会話が続くと誰の台詞なのかわからなくなる(勿論、注意して読めば、誰の台詞なのか全くわからないというわけではないが)ところが多々あった。いちいち台詞の前にキャラの名前を出して野暮ったくならないようにという意図でそういう風に作られる作品も多くある。この作者もそういう物が好きなのだと思うし、僕も嫌いじゃない。ただ、作風を考えるとその辺ばっさり割り切った方が良いんじゃないか、とも思う。特にかけあいの会話は、じっくり読み込むよりテンポ良く読みたいところだ。
 バトルに関してはあまり書くこともない。ロジカルな解決法はちょっとした頭の体操的な物だし、そうでない戦闘に関してはイタチさんがさくっと解決してしまう。そもそもにしてこの物語の中心じゃなくオマケ的な物だと考えるべきだろう。じゃあどの部分を見せたかったのか、と聞かれると少し困ってしまうところではあるけど。
 イタチさんは可愛かった。自分から萌えを振りまく(?)タイプではなく、いじらしさを感じさせるタイプ。主人公が可愛い可愛い言わせすぎなのはちょっと逆効果なのではないかと思う。でもまあ、うん、可愛い。ただひょっとすると出番は経島先輩の方が多かったりするのかな。絵柄、性格的に好みだった副会長の立ち位置が今ひとつ見えてこない。続巻読んだときは彼女がもっと前面に出てくるといいなあ。