感想:竹宮ゆゆこ『とらドラ9!』
何気ないその落書きに、竜司はしかし律儀に反応してしまう。ぴくりと肩が震えてしまう。大河は、自分になにかを伝えようとしているのだろうか。ハートが示すのはLOVE、大河のLOVEの行き先は――
「……見て、竜司」
「お、おう……」
原作の9巻、読みました。
他の巻とちゃんと比べたわけじゃないけど、いつもよりちょっと短いのかな。物語が加速してることもあって、あっという間に読み終えてしまった。
図らずも大河の自分への想いを知ってしまい、彼女に対する態度と距離感を測りかねている竜司に、進路の選択が迫られる。更に重なるようにして起こる問題。その時竜児の行動は――というようなあらすじ。
面白かった。ネタバレにならないところで言えば、春田とか。アノ野郎。あと今巻は挿絵がどれも印象的。アニメ見始めたせいでそっちに僕自身のイメージが引き摺られるかな、と思ったけど、そんなこともなかったぜ。
アンバランスだった人間関係が露呈していくことで進んでいく最近のとらドラ。ようやっと天の邪鬼なレギュラーメンバー達の本音が語られ始めました。中でも大河の天の邪鬼ぶりは筋金入り。最後のシーンはデジャビュー。
個人的には何といっても表紙になってるばかちー(川嶋亜美)かな。出番自体は少なかったけど。彼女が調整しようとあれこれ暗躍し引っかき回した結果が今。竜児は櫛枝にフられ、自分は実乃梨とケンカし、大河はケガを負い、そして誰もが傷ついている。なにより自分自身が孤独になっている。うわーこの子めちゃくちゃ責任感じてんやん。
誰よりも状況が見えていた故に、大きな後悔と孤独を抱えることになった亜美。これは大河の想いを知って逆に孤独になった竜児と同じ構図。自分だけじゃないことを知ることで、少しは竜児は勇気づけられたのだろう。
更に巧くいかないながらも前向きに頑張ろうとしてる実乃梨にも、竜児は勇気づけられる。同じように竜児も彼女らにぽつぽつと本音(弱音)を語り始める。
彼らは皆優しすぎる。あともうちょっとだけ誰かがエゴイスティックになれれば、誰かは傷ついても、丸く収まっていたのだろう(いや、彼らの優しさこそがエゴイスティックだろう、という意見もあるだろうけど)。
しかし、それぞれに思惑はありつつも、もう四角関係という感じではなく、ちゃんと一つの答(ジャイアントさらば等)を導き出そうとしている心優しき仲間達。を、一同に集めて自爆してしまう大河はやはりドジというかなんというか。
どうしてこうなったんだろう――という後悔が多くの登場人物の中に、そして竜児の中にもたくさん芽生えてます。そしてどうしても自分が悪いという結論に至ってしまう。さらに今回ばかりは大河にそれを相談するわけにもいかず……全体にわたって、竜児の孤独感、もどかしさが痛い。苦しんどる苦しんどる。竜児に萌える巻だな、こりゃ。
そして最後には、竜児のネガティブな思考の根底にあるものが、竜児のクチから言葉の刃になって飛び出す。それは言っちゃダメだー、と思うけど、竜児はずーっとこのコンプレックスを抱えて生きてきたんだろうな。果たしてこの先どうなってしまうのか、実に楽しみ。
ところで例のシーンで小学校の国語の教科書に載っていた「かまきりりゅうじ」を思い出した人は僕以外にもたくさんいるはずだ。